名品モノ語り vol.01|リミックス しぼりバックパック

vol.01 “しぼり技術”で製作された稀有なバックパック

革は消費するモノではなく、日々の暮らしの中で育てていくモノ、
高価ではあるけれど、それ故に愛着が湧くし、
月日と共に、自分にとっての名品へと変わっていきます。

そんな名品になるべく、
馬具作りの技術を生かして職人の技が紡ぎだす
ソメスサドルの逸品。
そこには、どんなストーリーがあるのか?
ソメスサドルのこだわり、伝えたい想いを語る連載企画。

今回ご紹介するのは、伝統技術である“しぼり”によって、
美しい曲線を描く「しぼりバックパック」にフォーカス。

日々製品に触れ合い、モノの良さを知るスタッフに、
語りつくせないアイテムの魅力を語ってもらいました。

語り手 兵藤 語り手 兵藤

ソメスでしか作れない「しぼり技術」を用いた美しい曲線

somesしぼりバックパック

ー 今回ホリデーコレクションから、おすすめの逸品をチョイスしていただきましたが、
数ある中からこちらを選んだ理由はありますか?

こちらの「しぼりのバックパック」は、ソメスのアイデンティティが、ぎゅっと凝縮されているんです。特に最大の特徴であるしぼり技術を用いた美しい曲線は「ソメスにしか作れないのでは?」と思っています。

絞り曲線

ー 確かに、実際に見ると曲線がすごくきれいでずっと見てられそうですね。
そうなんです。しぼりの工程は、薬剤を入れたお湯に革を浸して柔らかくし、それを木枠に入れてプレスします。そうすることによって、この美しいシルエットが形成されているんです。 ただこのしぼりの技術を使っているメーカーさんは激減していて、製作できるところがないんですよ。なぜかというとコスパがとても悪いんです…。

ー そうなんですね。どういったところでコスパが悪いんですか?
まずどんな革でもしぼりが出来るというわけではなく、植物タンニンで鞣した、繊維がぎゅっと詰まった堅い革でないといけないんです。しかも油分が多くても少なくてもダメ。いい塩梅のヌメ革が適しています。ちなみに、クロムで鞣した革は柔らかすぎて絞りには適してないですね。一方でタンニン鞣しの革は手間と時間がかかりますがクロムに比べて、堅く成形性の良い革に仕上がります。
さらには、生前のキズをカバーするための顔料仕上げでは、絞ったときにひび割れるので、主に染料だけで染めたアニリン仕上げの革を用います。当然、キズをよけながら広い面を裁断することになり、一枚の革からとれる本数も極端に少なくなってしまいます。

ー ここまで聞いただけでも、かなり手間がかかりそうですね。
そうなんです。こんなに大きなしぼりの成形を施すのは、歪みやすく至難の業なので、他社の職人さんがこの商品を見てすごく驚かれたこともあります。そしてそのしぼりができる職人さんはかなり限られています。ソメスの工場に50人位いる職人の中でもほんの一握りの方しか、しぼりをする事が出来ません。角をシワなく絞るというのも、試行錯誤を重ねたらしくて簡単にはいかなかったらしいです。そのためなかなかやるメーカーさんがいないんです。

ー そこまで手が込んでるからこそ、この美しい曲線のシルエットが完成するわけですね。角に皺が寄っている鞄を見かけることがあるんですが、絞りってそれが全くないですよね。このカーブの美しさは、お客さまにも実際にじっくり見て欲しいと思いました。
そうですね。実際にサンプル品をお客さまがご覧になったときに、「どうやって作ってるの?」というところから始まって、絞りについて説明すると、皆さん決まって「えっ凄いね。」と言われるんですよ。

ー 因みにソメスは、いつから絞りの技術を用いて、アイテムを作り始めたのですか?
馬具に使用されていたかはわかりません。ただ研修に行った際に、絞りの技術を使って2000年頃まで北海道警察のピストルを入れるホルスターを作っていたと教えてもらいました。歌志内市の工場に行ったときに、ホルスターを絞ったときの木型が地面に転がってたんですよ(笑)その技術が今でも継承されてるんですね。

サドルホルダーをモチーフにした頑丈なハンドル

鞄のハンドル

ー 他にソメスらしい特徴はありますか?
大きな特徴は3つあります。1つめはハンドル部分。馬具でいうサドルホルダーのハンドル部分をモチーフにしています。馬具って命に関わるもの。ハンドル1つとってみても、普通に見られる、芯材に革を巻いたものではなく、丈夫なタンニン鞣しの革を何重にも重ねて縫っています。普通の革用ミシンでは縫えないので、厚みのある革を縫うのに適していて、馬具製作でも用いている強力なミシンを使います。なので、「馬具メーカーにしか作れないハンドル」といえるかもしれませんね。

ー こんなに分厚い革なのに、本当に縫製がきれいですね。
ドイツ製のアドラーというミシンで縫ってます。とても強力なミシンで、ステッチが革に沈み込んで、浮いて見えないので美しく感じるのだと思います。
芯材は、他のブランドさんだと取っ手の部分にプラスチックを入れて先端だけ縫っていることが多かったりします。でもそれだと、使っていくうちにパキンと折れてしまって、経年変化で味が出る前に、取っ手部分の交換をしなければならないこともあります。こちらは芯に床革を使用しているので使っていくうちに手に馴染むんですよ。

取手 コバ部分

ー 革芯なら手に掴んでいると、その人の手に合わせて馴染んできますよね。
最初はハンドル部分が硬いんですけど、適度に手のひらの油を吸ったりしてるとその方の手に合わせて馴染む。それが本革のいいところですよね。
使用していくうちにハンドル部分の革が柔らかくなりすぎたら、ぶちんと切れるんじゃないかと心配されるお客さまがいらっしゃるんですけど、馬具のハーネスの革ってぶちんと切れないんですね。一説によると引っ張ったときに一番最大の強度が出るらしいです。その原理があるので、ぶちんと切れることはないと思います。

ー なるほど。それほど革のハンドルは丈夫なんですね。鞍の手綱がモチーフだと、無骨な印象になりそうですが、このぐらいの細さなら上品な趣きがありますね。
ハンドルの細かい部位もコバで丁寧に仕上げるんですよ。意外と細かい箇所は切りっぱなしの鞄も少なくないんですよね。そういったところも品格のある趣きに結びついていそうです。あとハンドルに施されたベルトの金具位置が背負ったときに、さりげなく見えるんですよね。そこは私のお気に入りです笑

鞍鋲をさりげなくデザインに落とし込んで

鞍鋲

ー 2つめの特徴は何になりますか?
2つめは、馬具の鞍に使用しているソメスの鞍鋲になります。鞍鋲は、あえて手前ではなくて後ろに入れています。ソメスはブランド名で売っているわけでなく、あくまでも革や縫製の良さを見て欲しいという想いがあるので、あえて目立たないところに入れているんです。感じ方は人それぞれですが、馬具メーカーが作っている鞄だと主張するようなマークが、さりげなないところにデザインとして落とし込まれているところが私は素敵だと思っています。

ー モノの良さに重きを置いているソメスらしさを感じますね。
はい、アイコニックな箇所が目立ってしまうと、時代とともに飽きを感じやすくなるかもしれません。良いものを長く愛用して欲しいという想いがあるので、時代に左右されないニュートラルな見え感が大事になってくると感じています。

際の際まで細かく縫製する職人技

スイングミシン

ー では3つめの特徴を教えてください。
3つめは開閉箇所にスイミングミシンを使用した縫製です。

ー 希少性のあるミシンだと伺っていますが、どういった特徴がありますか?
通常鞄は、縫ってひっくり返して袋にするんですね。通常のミシンはアームが固定されているのでそうせざるを得ないのですが、スイングはその名の通りアームが回転するので立体的な縫製が可能になり、一般の鞄作りとは別物になります。だからコーナーが美しいんですね。

ー じゃあ、絞りによるカーブの美しさをより引き立ててくれそうですね。
あっそうなんです。あと鞄の中に縫い代が出ない。スイングで縫うと中が広く使えるようになりますし、まるでケースのようにきれいに仕上がります。しかしこのスイングミシン、まっすぐ縫うだけでも難しくて扱える職人はごくわずか。形を綺麗に出せると同時に、ステッチの美しさが際立つ縫い方でもあるので、熟練の技の見せ所でもあります。
しぼりとスイング、両方の技術があって初めてこのバッグを作れるわけです。

ー そうですね。実際に見ると分かるんですが、本当に繊細できれいな縫製ですよね。
細かく縫った正確なステッチは、やはり鞄に品格が宿ると思っています。またステッチは繊細なだけではなく丈夫でもあります。革が柔らかくなっても、革と革が強く圧着されているので、革が柔らかくなっても糸がたわまないんですよね。たわむと何かとぶつかってよく切れたりするじゃないですか?それがないので、ソメスで生産しているバッグは糸のほつれによる縫い合わせの修理がほとんどないんですよ。それは凄いなと思います。

ー ほつれる箇所によっては分解しないといけなくなるので、修理が難しくなりますよね。
そうなんです。鞄も人と一緒で何回も大きな手術ができないんですね。なので、分解するような大きな修理は1・2回が限界だったりします。そうなると長く使っていただけなくなります。なのでただ縫うだけじゃなくて革と革を深く圧着させるその馬具の縫い方が反映されてるところが、誇れるところですね。

スマートな所作が叶う機能デザイン

鞄を開いている場面

ー では次に使用していく上での機能面について教えていただけますか?
中が見やすいフルオープンで、サイドにマチを付けてちょうどいい角度で開く様になっています。ガバっと開かずに、モノが見えやすいんですよね。

ー この角度で開けば、スマートな所作ができそうですね。モノが見えにくいと、どうしてもガサガサと探しがち。そうすると所作が格好悪く見えてしまいます。特に会議や商談のときにバッグを開けるときの所作がスムーズなら、仕事ができる印象を演出してくれそうです。
そうなんです。あと中の裏地の色がブルー・キャメルともに見やすいと思います。特に男性は小物で黒を持たれる方も多いと思うので、ぱっと見分けがつきやすいと感じました。

ドリンクホルダー

ー そうですね。あと自分の中でいいなと思った仕様はドリンクホルダーですね。ペットボトルとかドリンクボトルって、まれに蓋が緩んでいてこぼれることないですか(笑)なので少なくとも移動中はその心配が無さそうです。折り畳み傘を常備している方なら、ホルダーの収納しておけば、場所が分かるので急な雨でもさっと取り出せそうですね。
そうですね。意外とこういうドリンクホルダーの仕様って無かったりしますよね。あとは13インチ対応のPCポケットもついてます。PCだけでなく、タブレットやA4書類、雑誌なども収納できます。下のポケットがあるんですが、斜めになっているので取り出しやすいんです。見た目にも洒落感がプラスされて気に入っています。

ポケット仕様

ー ポケットが必要最小限なのが個人的には好きです。ポケット多すぎると、結局どこに何をしまったか分からなくなるんですよね(笑)
確かに…。あとバッグインバッグにした方がコーデに合わせてバッグをスムーズに変更できるのでおすすめですよ。 これ以外にももっと多機能にすればいいじゃないかと思われる方がいるかもしれないんですけど、多機能にすればするだけ、革に穴を空けて縫わなきゃいけなくなるんです。いい革ってそれなりに重さがあるので、機能を追加するとさらに重たくなるのですよね。なのでデイリーユースしにくくなってしまう。

ー 重さって、毎日電車などで通勤する方にとっては、とても重要になってきますよね。
そうですね。良く歩く方にとっても重さは大切になりそうです。あと内装がコテコテしていない分、長年使用した後の内装交換のコストパフォーマンスも良かったりします。内装が凝っていたりすると、修理費用が高くなったりするので「なら捨てちゃおう。」となるケースがあると思います。内装がシンプルな作りなら、修理費が抑えられて長く使用できるというメリットがあると感じています。

ー 中の内装デザインもミニマムですが、都会的な印象がありますよね。
そうですね。裏地のステッチを同色にしているので、洗練された印象を添えてくれます。ソメスって、どこかカジュアルで牧歌的なイメージがあるじゃないですか?でもこれはスタイリッシュに使える都会的なデザインにソメスが挑戦したところがあるかなと思っています。

メッシュ

ー レザーバッグで裏がメッシュなのはポイントですね。通勤で満員電車に乗らなければいけない方には、蒸れにくいので嬉しい機能です。
柔らかいから通気性もいいし傷みにくくなっています。あとショルダーストラップは、家具用に使ってる革を張っているので滑り落ちにくいです。柔らかいので肩も凝りにくいかと思います。

RECOMMEND STYLING

全身後姿

ー では次にスタイリングについて教えてもらえますか?
バッグは男女共に使えるユニセックスになっています。通勤スタイルはもちろんのこと、デイリーで使用すれば、カジュアルなスタイルにぐっと大人の表情がプラスされます。 ショルダーストラップの幅が絶妙で、男女関係なくバランスの良い見え感になるのがポイントです。特に細身の方は、ショルダーストラップの幅が広いと見た目のバランスが悪かったりするんですが、この幅なら上品でバランスの良いスタイリングを叶えてくれそうです。

ブルー女性着用

ー 落ち着きのあるブルーなので、シックなスタイルにも相性が良さそうですね。
そうですね。明るすぎないブルーなので、ネイビーやブラックの服にも浮かずに、まとまりのある落ち着いた印象になります。本格的な冬が到来したら、ホワイトやアイボリーのマフラーをプラスして、顔周りをぱっと明るくするのもおすすめですよ。

ブルー男性着用

ー 男性のスタイリングはどうですか?
上品な趣きのバックパックなので、セットアップをはじめ、スーツスタイルにも合いやすいのがポイントです。革靴はセオリーどおりネイビーでもいいですし、ブラックでもまとまりのあるスタイリングに決まると思います。スニーカーとの相性も良く、抜け感のあるスタイリングをバランス良く調和してくれますよ。

キャメル着用

ー キャメルは冬のスタイリングのアクセントになりそうですね。
キャラメルのようなきれいな色ですよね。アイボリーやホワイトのアウターで合わせれば、暗くなりがちな冬のスタイリングに華やぎを添えてくれて、女性らしい優しい印象を演出してくれます。 男性は、ブラックやダークグレーが鉄板で合いやすいですし、暗めのカーキとも相性良くお召しいただけますよ。

生きた証が感じられる至高の革

革のアップ

ー 長くなりましたが、最後に革についてお聞きしてもよろしいでしょうか?
はい(笑)こちらの製品は、絞りに適した革になるようにソメスが開発しました。革の表情を生かした染料を使用しているので、当然トラ(シワ)も多く入るし、黒点(ほくろの様なもの)も入るんですね。でもこれは不良品や悪い革とかではないんです。上から塗料を型押ししてカバーすることもできるけれど、あえてそれをしないで表面の良さを生かしています。良い革として生きた証が残った革を提供したいという想いがソメスにはあるんです。なのであえてトラがあるものを好んで選んでいただければ嬉しいです。

ー 革が好きな方なら、トラやムラがあるけれど、この有機的な表情を楽しんでもらえそうですね。
本当にそれです!やっぱり「染めムラがある方が味があっていいよね」とか「トラが残っていて、生きた証が感じられるね」と言っていただけると喜びもひとしおです。

ー 個々で表情が違うのが、革ならではの魅力ですね。
そうなんです。天然皮革ならではの特徴として1枚の大きな革の中でも表情豊かで個性もあり、傷やしわなどがあるので、きれいな部分って限られてくるんです。一番きれいな部分をメインに使用し、傷があったりムラがある部分を目立たないところに使用する。すべてが完璧にきれいな革は存在しなくて、それを本当の革らしさとして感じてもらえるとより革製品を楽しめると思います。
また、今回の絞りのバックパックはソメスの挑戦を特に感じられるもの。技術の継承も含めて、こういった難しいモノを世に残していくことは簡単ではありませんが、それもソメスの使命だと考えています。職人たちの「挑戦する想い」から生まれる価値は小さくありません。このバッグの曲線からその価値を感じていただけたらと思います。
お値段は決して安くはないのだけれど、ソメスの挑戦が詰まっていると思っていただければ、決して高くはないと感じています。

ー それほどに今回のバックパックには、ソメスのアイデンティティになるものが凝縮されてそうですね。
はい、実際にお手にとって職人の巧の技を感じていただけたら幸いです。銀座店でぜひお待ちしております。

PICKUP ITEM

ソメスサドルが贈る、ホリデーシーズン限定の特別アイテム。長年の馬具づくりで得た、革を扱う目と技術。そのすべてを駆使して成す造形技法「しぼり」を活かして、ソメスサドルだからこそ出来るバックパックをおつくりしました。

【限定】リミックス しぼりバックパック RM-90
¥198,000

SHOP IMFORMATION

銀座店

ソメスサドル銀座店

所在地東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 5F
電話番号03-6264-5576
営業時間10:30~20:30
定休日施設営業日に準ずる

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